「農業の「伸びしろ」の定量化の試み」セミナーメモ

霞が関で開催された農業ビジネスセミナーに参加しました。講演内容と、講演後の質疑応答の内容を、覚えている限り書き、最後に私の所感を書きます。

参加者、主催者の皆様は、もし内容に齟齬がありましたらご指摘いただけると幸いです。また、写真の掲載は主催者の許可を取っております。

 

■農業の「伸びしろ」の定量化の試み
「農地の伸びしろ」、「作物の伸びしろ」、「作物別農地別収支」という3つの観点で議論されました。以下、それぞれの内容を常体で書きます。

1.農地の伸びしろ
農地面積ベースでみれば、農地の約4割が「伸びしろ」である。
特に北海道の余地が多く、「同居農業後継者がいない農家の経営耕地面積」のうち、「他出農業後継者がいない」耕地面積が58%となっている。しかし、本州の農業経営者とは異なり、土地に対する執着がなく、土地の流動性が高いため、土地後継者不足が深刻化する可能性は低いと考えられる。

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2.作物の伸びしろ
「2010年世界農林業センサス」の情報から、人数ベースでみれば稲作と果樹類に「伸びしろ」があるといえる。稲作農家の約87%、果樹類農家の約72%が60歳以上であり、将来的に彼らの持つ農地が放出される可能性がある。養豚や酪農では、60歳以上の農家が比較的少なく、酪農は61%が、養豚では53%が60歳未満である。

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3.作物別農地別収支

一戸当たり農業所得でみれば、大規模稲作経営(569万円)が最高。他には切花(菊)、ミニトマトが同程度の利益を上げている(解像度が低く、画像からでは文字がはっきり見えません。すいません)。10a当たり農業所得では、ミニトマト(20万円)が最高。切花(菊)も高い。時給換算農業所得では、北海道麦類作(4893円)が最高。 

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質疑応答 

Q1.農業のIT化は、今後どのような方向に進むか?

A.作物栽培活動に閉じるのではなく、消費者の需要に関するデータまでも取り入れた環境制御システムや作物生産管理システムができるのではないかと思います。つまり、川上から川下までを統合したシステムです(ここまでのシステムは、世界でもまだできていないそうです)。

例えば、「これは売れそうだな」と思った機能性野菜を開発するときにこのようなシステムがあれば、どの時期にどれくらいの量をどれくらいの価格で消費者に売れるのか、そこから販売・流通・生産の諸々のコストを引いて、どれくらいの利益を農業生産者が上げられるのか、ということが、過去のデータから、その作物の開発段階で分かるようになり、さらにそれに連動するような形で、栽培計画の作成や調整も細かくできるようになるかもしれません。生産拠点が複数あれば、それらを総合的に管理することももちろん可能でしょう(これはもう既に出来てるかもしれません)。

 

 ■農業の「伸びしろ」として何があると思うか(自分の所感)

「伸びしろ」=「現状では大して発展・成長していないが、近い将来、規模の拡大や売り上げ向上が見込める部分」と定義すると、日本農業に対しては、今の私の知識では「伸びしろ」として正直何も思いつきません。つまり、今の状態から、オランダのように、一つの産業として国の経済を大きく支えるようになるのは難しい(少なくとも数年でできることではない)のではないか、ということです。

 まず、すでに認知されているような、6次産業化や農作物の輸出や外食産業相手の契約栽培や和食ブームに乗っかる、といった打ち手ではもはや大した飛躍にはならないと思います。既に皆が知っていて、できる人はもうやっているし、先日、オランダに農業研修に行った方から「オランダではずっと前から当然のようにやっている」と聞いたからです。

 また、セミナーの内容からも感じたことですが、日本農業の深刻な後継者不足を日本農業の「伸びしろ」と捉え、

日本農業の後継者不足→食料の供給減・需要過多→商品価格高騰(ビジネスチャンス)→若手や他産業からの参入→供給不足を賄う→その過程で区画整備や技術革新がなされ国内農業が以前より発展する

という流れに期待するのは、今の国内の農政と地域農村の文化を考えると、ちょっと楽観的過ぎかなと思います。むしろ、 小平株式会社の小平さんがブログに書かれている、以下のようなシナリオのほうが可能性として高いのではないか、と現時点では思います(そうならない可能性を個人的には期待したいです)。

http://www.zackzack.jp/u/kobira/szcfavrndf5f2i
--引用ここから----------------------------------------------------------------
あと10年もすれば今の高齢農家がリタイヤして野菜価格は高騰する!という話もあるんですが、貿易に携わっている立場としてはこれ幸いとベトナム辺りから大量に輸入して国産野菜の持ってる市場を2〜3年でローラー営業かけて食い尽くすという形になるかと思います。海外でGlobal GAPもってる大規模農場が増えていることと、国内ではあまりそういう生産管理をちゃんとやってる農場はまだまだ少ない事を考えると海外野菜と国内野菜の安全神話というのも、自分の立場としてはあまりないかとも思ってます。
--引用ここまで----------------------------------------------------------------

 海外と対比した時、日本農業の強みとしては品質管理技術と作物の品種が「伸びしろ」として期待されるかもしれませんが、これらもリソースを投入し続けて日々改善して、積極的に海外に売り込んでいかなければ、すぐに強みではなくなるのではないかと感じます。同様の研究は、アメリカやヨーロッパやインドも積極的にやっているためです。更に、このセミナーとは別の場所で聞いた話では、日本はこの「売り込み」が上手くないらしいです。例えば、積極的に使ってもらってライセンスフィーを貰って収益を得る、ということをあまりしていないそうです。

 

 このように、国として農業をオランダのように一大産業にまで発展させるには、相当な改革が必要と思います。

 ただし、これは日本の農業全体の話であって、個人レベルではまだやりようはあると思います。また世界レベルでは農業はこれからも発展していくのではないかと思います。世界レベルで発展する可能性として、例えば以下があります。

自然の木をイメージした垂直農場 植物工場や様々なクリーンテクノロジーを導入 | イノプレックス

  

■用語集

他出農業経営者:農業後継者のうち、満15歳以上で独立して生活している者

農業所得 = 収入金額-必要経費-青色事業専従者給与額-青色申告特別控除額

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